経費精算のやり方は、経理のあの人に聞かないとわからない。その人が休んだ日は、申請が止まる。新しい人が入るたびに、同じ説明をまた一からする。社内でこういう状態が続いているなら、この記事がひとつの手がかりになると思います。
結論から言うと、今ある社内資料をAIに読ませれば、質問に答えてもらったり、FAQ(よくある質問集)の下書きを作ったりはできます。GoogleのGemini Notebook(2026年7月にNotebookLMから名前が変わりました)なら、無料の範囲で試せます。ただし、資料に書かれていないことまでAIが知っているわけではありません。1つの業務に絞って、資料を確かめてから入れて、できたFAQは人が確認する。この順番で進めるのが現実的です。
「あの人しかわからない」は、大きい会社にもある
マニュアル作成ツールのスタディストが、2026年2月に製造・小売・卸売・サービス業などで働く1,233人にインターネット調査をしています。「特定の人にしかできない業務がある」と答えた人は、従業員300人以上の会社で59.2%、300人未満の会社で58.0%でした。
1社の民間調査なので、鹿児島の会社にそのまま当てはまる数字ではありません。ただ、規模が大きい会社でもおよそ6割。「あの人しかできない」業務を抱えているのは、小さい会社だけではないんです。
とはいえ、マニュアルづくりには、手順を書き出す時間と、作ったあとの更新の手間がかかります。日々の仕事と並行して進めるなら、範囲を絞って始めるのが現実的です。
最初は、繰り返し聞かれる業務を1つだけ選ぶ
いきなり全部の業務をマニュアル化しようとすると、作るのも直すのも負担が大きくなります。僕なら「毎回、同じ人に聞いていること」を1つだけ選びます。
たとえば経費精算なら、申請の締め切り、提出先、領収書の扱い。その業務について、今ある手順書やメモを集めます。そして、その資料が今も正しいかを担当者に見てもらう。AIに入れるのはそのあとです。古い手順書を入れると、AIは古い手順をもとに答えてしまうおそれがあります。
Gemini Notebookで、資料をもとに質問してみる
使うのはGoogleのGemini Notebookです。以前はNotebookLMという名前で、2026年7月16日にGoogleが名称の変更を発表しました。無料で使える範囲があって、無料ユーザーは1つのノートブックに最大50個まで資料(ソース)を入れられます。
入れられるのは、PDF、Word、Googleドキュメント、PowerPoint、スプレッドシート、画像など。よく使う形式はひととおり入れられます。ただし、画像などはうまく読み取れない場合もあります。
手順はこうです。新しいノートブックを作って、確認済みの手順書を追加する。そのうえでチャットに、こう聞いてみてください。
「経費精算の手順を、提出前の確認事項も含めて教えてください。資料に書かれていない点は、推測せず『記載なし』と答えてください」
最後の一文がポイントです。書いていないことを無理に埋めないように、先に伝えておきます。答えには、資料のどこを参照したかが示されるので、そこを開いて元の文章と見比べてください。資料が短いと、特定の文ではなく資料全体が参照先として出ることもあります。
うまく答えられたら、次は「この手順書をもとに、新人が聞きそうな質問と回答の下書きを作ってください」と頼みます。これでFAQのたたき台ができます。
できたFAQは、必ず担当者が確認する
AIが作るのは、あくまで下書きです。手順を知っている担当者が読んで、間違いや抜けを直してから社内に共有してください。
ここで見つかるのが、「資料には書いていないけど、実際はこうしている」という例外です。取引先によって締め日が違う、金額によって承認する人が変わる、など。こういう判断基準は、担当者に聞き取って資料に足さない限り、AIの答えにも出てきません。逆に言えば、AIがうまく答えられなかった質問は、マニュアルに足すべき内容を教えてくれているわけです。
資料を入れる前に、中身と共有範囲を決める
社内資料をAIに入れるときに、いちばん気をつけたいところです。
個人情報や取引先の資料が混ざっていないか
顧客名、従業員の個人情報、契約条件、取引先から預かった資料。こういうものが手順書に混ざっていないか、入れる前に確認します。必要な部分だけに絞ってから入れてください。個人情報保護委員会も、生成AIに個人情報を入力するときは、利用目的の範囲内か、サービス側でデータがどう扱われるかを確認するよう注意を呼びかけています。
入れたデータがAIの学習に使われるか
Googleの説明では、個人アカウントの場合、Gemini Notebookに入れた内容は基盤モデルの学習に直接使われることはありません。ただしこれは、フィードバック(回答への高評価・低評価など)を送らない限り、という条件つきです。フィードバックを送ると、質問や資料などの関連する内容が収集されます。
会社で契約するGoogle Workspace(Googleの法人向けサービス)のアカウントなら、フィードバックを送った場合も含めて学習には使われない、と説明されています。社内資料を本格的に扱うなら、個人のアカウントより会社のアカウントで使うほうが安心です。契約しているプランで使えるかどうかは、先に確認してください。
誰に共有するか
共有は、必要な人のメールアドレスを指定して始めます。閲覧者として共有した人も、入っている資料そのものを読めます。社内の機密資料を入れたノートブックは、「リンクを知っている全員」に公開する設定にしないでください。
使い始めたら、資料の更新担当を決める
FAQは作って終わりではありません。手順が変わった日に、元の資料も直す。その担当を資料ごとに決めておきます。直したあとは、ノートブックの中の資料も新しいものに入れ替わっているかを確認してください。
効果を見るなら、始める前に、その業務について担当者に来た質問を1〜2週間ほどメモしておくとわかりやすいです。試したあとに見るのは、同じ質問の件数だけではありません。AIの答えが正しかったか、結局担当者に確認しに来たか、古い資料が見つかったか。質問が減っても、間違った答えで作業した人が出たなら、やり方を見直すサインです。
向いていない業務もある
AIに任せれば全部片づく、という話ではありません。
そもそも手順が資料に残っていない業務は、AIに読ませる前に聞き取りが要ります。クレーム対応や契約の解釈、お客さんごとに判断が変わる対応も、AIの答えをそのまま実行する使い方には向きません。こういう業務は、最終的に誰が判断するかを決めておいてください。
現場の作業で、文章より映像のほうが伝わる手順なら、動画や画像で手順書を作る専用ツールもあります。たとえばTeachme Bizは、公式の料金ページではエントリープランが月額89,800円(税抜)で、別に初期費用がかかります。契約は12ヶ月単位で、利用料は始めるときに一括払いです。まず無料のGemini Notebookで感触をつかんでから、必要なら専用ツールを検討する。その順番で十分だと思います。
まとめ
社内マニュアルは、一から完璧に作り直さなくていいです。繰り返し聞かれる業務を1つ選んで、今ある資料を確かめて、Gemini Notebookに入れてみる。できたFAQは担当者が確認して、更新する人を決める。うまく答えられなかった質問は、マニュアルに足すべきことのリストになります。
「あの人しかわからない」業務を減らしたいけど、どの資料から手をつけるか、社内の情報をどこまで入れていいかで止まっている。そんなときは、今の資料と社内の運用を見せてください。どこから始めるか、一緒に考えます。
ここも気になるかも
ChatGPTでも同じことはできますか?
資料を読ませて質問する使い方はできます。ただ、入れられるファイルの数や、データが学習に使われるかどうかは、プランと設定によって変わります。無料や個人向けのプランで社内資料を扱うなら、学習に使わない設定になっているかを先に確認してください。設定をオフにしていても、回答にフィードバックを送るとその会話が使われる場合があります。会社として使うなら、法人向けのChatGPT Businessのように、会社のデータを学習に使わないと説明されているプランを選ぶのが安心です。
マニュアルが紙しかない場合はどうすればいいですか?
まずスキャンするか、スマホで撮影します。Gemini Notebookは画像も資料として入れられますが、写真の写り方によってはうまく読み取れないことがあります。大事な手順は、読み取った内容を担当者が確認して、文字に起こしてから入れると確かです。
社員がAIの答えをそのまま信じてしまいませんか?
その心配はもっともです。「答えの参照元を開いて確かめる」「資料にない答えは担当者に聞く」を、使うときのルールにしておいてください。参照元がついていても、その資料自体が古ければ答えも古くなります。資料の更新とセットで考えることです。
NotebookLMで作ったノートブックはそのまま使えますか?
Googleの発表では、名前が変わったあとも単独のサービスとして続いています。表示名が変わっているので、社内の手順書に「NotebookLM」と書いているなら、あわせて直しておくと迷いません。