「うちもSNSやった方がいいですか?」——この質問、僕は月に何回も受けます。飲食店、美容室、士業、建築会社。業種を問わず聞かれます。で、僕の答えはいつも同じ。「場合による」です。身もふたもない回答に聞こえるかもしれませんが、これが正直なところなんです。
SNSをやるかどうかは、業種や目的、そして今の集客の仕組みがどうなっているかで判断が変わります。「とりあえずやっておけば安心」という話ではありません。この記事では、僕がクライアントに聞かれたとき、実際にどういう基準で答えているかを整理します。
「とりあえずSNS」が失敗するワケ
東京商工リサーチが2023年8月に実施した調査では、企業全体の54.8%がSNSを「運用していない」と回答しています。さらに、運用している企業でも29.3%が「特に効果は得られなかった」と答えています。
これ、感覚的にも合っています。僕のクライアントでも、「Instagramのアカウントは作ったけど、最後の投稿が半年前」というケースがよくある。投稿が止まったアカウントは、やっていないのと同じです。むしろ「この会社、大丈夫かな」と思われるリスクすらある。
なぜ続かないか。理由はシンプルで、目的が曖昧なまま始めているからです。「なんとなく周りがやってるから」「若いスタッフがいるから任せよう」。この入り方だと、3ヶ月で手が止まります。何を投稿すればいいかわからない。反応もつかない。忙しくなると後回し。この流れはほぼ決まっています。
SNSが向いている会社、向いていない会社
帝国データバンクの2023年9月調査では、社外向けにSNSを活用している企業は全体で40.8%。個人消費関連の業種(BtoC)では74.6%、小売業では69.3%と高い一方、中小企業全体では40.5%にとどまっています。
この数字が示しているのは、「お客さんが一般消費者かどうか」でSNSの向き不向きが大きく分かれるということです。
たとえば美容室、カフェ、パン屋。こうした業種はInstagramとの相性がいい。写真で魅力が伝わるし、「近くにこんな店があるんだ」という発見が来店につながりやすい。実際、Instagramのリールはフォロワー以外にも表示されやすい導線を持っているので、まだ自分を知らない人に見つけてもらうきっかけを作りやすいです。
じゃあ、BtoBはどうか。税理士、建設会社、製造業。こういった業種でInstagramに力を入れても、正直リターンは見えにくいです。決裁者がInstagramで取引先を探すことはまずありません。BtoBならXやYouTubeのほうが接点を作りやすいケースもありますが、それでも「SNSをやれば集客できる」というほど単純ではない。
ここでの判断基準は1つ。「お客さんがそのSNSを使っているかどうか」。自分が発信したいかどうかではなく、届けたい相手がどこにいるかで決めてください。
SNSより先にやるべきことがある
SNSをやるかどうかの前に、確認してほしいことがあります。受け皿は整っていますか。
SNSで興味を持った人は、次にどこへ行くか。ほぼ確実に、ホームページかGoogleビジネスプロフィールを見に行きます。そこに情報がなかったり、古いままだったり、問い合わせの導線がなかったりすると、せっかくSNSで「いいな」と思ってもらっても離脱する。
SNSは人を連れてくる手段です。連れてきた先がスカスカなら意味がない。ホームページの情報が更新されていない、電話番号が見つからない、メニューや料金がわからない。そういう状態でSNSに力を入れるのは、穴の開いたバケツに水を注いでいるのと同じです。
とくに地域商圏のビジネスでは、SNSより先にGoogleビジネスプロフィールを整えたほうが効くことが少なくありません。店名で検索されたときに、営業時間、写真、口コミ、問い合わせ導線が揃っているだけで来店率は変わります。SNSは知るきっかけにはなっても、最終確認はGoogleでされることが多いからです。
逆に、SNSを今やらない方がいい会社もあります。紹介だけで十分集客できている、ホームページやGBPが未整備、社内に更新を回せる人がいない。このどれかに当てはまるなら、SNSは後回しでいい。やることを増やすより、今ある導線の歩留まりを上げるほうが成果につながることが多いです。
僕がクライアントに「SNSやった方がいいですか」と聞かれたら、まずサイトとGBPを見ます。そこが整っていなければ、「SNSは後でいい。まずこっちを直しましょう」と言います。
やるなら「1つだけ」から
受け皿が整っている前提で、じゃあSNSをやるとして。ここで多くの人がやりがちなのが「Instagram、X、TikTok、全部やろう」というパターン。気持ちはわかりますが、これは確実に破綻します。
SNS運用は想像以上に手間がかかります。写真を撮る、文章を考える、投稿する、コメントに返す。1つのプラットフォームだけでも、週に数時間は必要です。複数を同時にやると、どれも中途半端になる。
僕がすすめるのは、まず1つだけに絞ること。どれを選ぶかの基準はこうです。店舗型のBtoCビジネスで、写真映えする商品やサービスがあるなら、Instagram。既存客との関係を深めたい、リピートを増やしたいなら、LINE公式アカウント。情報発信で専門性を見せたいなら、XかYouTube。
ざっくり整理すると、Instagramは「見つけてもらう」ためのSNS、LINEは「忘れられないため」のSNS、XやYouTubeは「専門性を伝える」ためのSNSです。どれが優れているかではなく、何に使うかで向き不向きが変わります。
LINEは新規集客には弱いけど、一度来てくれたお客さんとの接点を維持するには強い。LINEヤフーの媒体資料では、LINEの国内月間利用者数は9,800万人。さらに総務省の情報通信白書によると、2024年のLINE利用率は60代でも91.1%に達していて、若い世代だけでなく中高年にも深く浸透しています。
若い世代に届きやすいのはInstagramの強みです。総務省の令和6年度調査では、Instagramの利用率は20代で78.0%、30代で70.5%。全年代でも52.6%に達していて、若年層から中年層まで広く使われています。
ポイントは、自分がラクに続けられるものを選ぶこと。毎日写真を撮るのが苦じゃないならInstagram。文章を書くのが得意ならX。続けられないSNSは、やっていないのと同じです。
効果が出るまでの現実的な時間
SNSは広告と違って、始めてすぐ結果が出るものではありません。ここは業種や体制でかなり差がありますが、僕の実務感では、反応の傾向が見え始めるまでに3ヶ月前後。問い合わせや売上への影響が見えてくるのは、早くても半年以上かかることが多いです。
この「しばらく成果が見えない」という現実を受け入れられるかどうか。ここが分かれ目になります。「1ヶ月やってみたけどフォロワーが増えない」と言ってやめてしまう人が多い。でも、1ヶ月で結果が出るほうが珍しいんです。
だからこそ、「やるなら腰を据えて半年」という覚悟が必要です。それが難しいなら、SNSよりもGBPの最適化やリスティング広告のほうが即効性があります。限られたリソースをどこに使うか。この優先順位を間違えると、全部が中途半端になる。
僕の答えをまとめると
「SNSやった方がいいですか?」への僕の回答は、こうです。
まず受け皿(ホームページとGBP)を整える。それができているなら、お客さんがいるSNSを1つだけ選ぶ。半年は続ける覚悟で始める。それが難しいなら、SNSより先にやるべきことがある。
SNSは万能薬じゃありません。でも、正しい順番で、正しい使い方をすれば、広告費をかけずに見込み客と接点を作れる強力な手段になります。やるかやらないかより、「今やるべきタイミングか」を見極めることのほうが大事です。
SNSを始めるべきか迷っている、あるいは始めたけど手が止まっている。そういう状態なら、今のWeb周りの状況を一度見せてください。SNSが先か、他にやることがあるか、一緒に整理します。
ここも気になるかも
SNS運用を外注したら、費用はどのくらいかかる?
SNS運用の外注費は、投稿代行だけなのか、企画・撮影・分析・広告運用まで含むのかで大きく変わります。少額の代行プランもありますが、戦略設計や改善提案まで求めると費用は上がりやすい。金額だけで比べず、「どこまでやってくれるか」を先に確認したほうが失敗しません。まずは自社で少しやってみて、何に時間がかかっているかを把握してから外注を検討すると、お金の使い方として賢いです。
投稿するネタが思いつかないときはどうすればいい?
お客さんから実際に聞かれたことを、そのまま投稿にするのが一番ラクです。「こういう質問をよくもらいます」「こんな相談がありました」という形にすると、同じ悩みを持つ人に届きやすい。日常の業務の中にネタは転がっています。「投稿用に特別なことをしなきゃ」と思うと続かなくなります。
フォロワーが少なくても意味はある?
あります。フォロワー数より、投稿を見た人が実際に動いてくれるかのほうが大事です。店舗ビジネスなら、プロフィール閲覧数、Googleマップへの遷移、サイトクリック、LINEの友だち追加、問い合わせ件数のほうがよっぽど重要。フォロワー100人でも、そのうち10人が来店してくれたら十分な成果です。数を追うより、届けたい人に届いているかを見てください。