「AIってWeb制作者の仕事も奪うんですよね?」——鹿児島の経営者と話していると、最近この質問をよくもらいます。半分は気を遣って、半分は本気で心配して聞いてくれている感じです。Web制作を仕事にしている当事者として、現場で見ている景色をそのまま書きます。煽りも楽観もせず、奪われている部分と残っている部分を分けて話したいと思います。
結論を先に。奪われる仕事と、むしろ価値が上がる仕事に分かれています
全部奪われるは嘘です。全部残るも嘘です。奪われるのは作業。残るのは判断と関係性です。
単純作業に近い領域、たとえば数万円で受けるテンプレ的なLP制作、写真の加工、シンプルなバナーやサムネイル作成。このあたりは、すでにAIによる置き換え圧力がかなり強くなっています。テンプレ的で反復性の高いタスクほど、価格競争が起きやすくなっているのは事実です。
一方で、戦略から考える案件、地域の事情をふまえた提案、運用しながら改善していく仕事は、むしろ価値が上がっています。「作るスピード」より「何を作るか決める力」のほうが希少になってきたからです。
先に一つだけ断っておきます。ここで書いているのは、鹿児島の中小企業の案件に関わるなかで見えている現場感と、公開されている調査や事例を合わせた話です。全国のすべての案件を一つの傾向で語れるわけではありません。ただ、「作業はAIに寄る」「判断と提案の価値はむしろ上がる」という流れは、国内外のデータともかなり整合しています。
「奪われた仕事」と「残っている仕事」を分けてみます
奪われた側の例から書きます。noteで「AIで仕事、失いました」と書いた29歳のWebデザイナーがいます。ノーコードでサイトを作って納品する仕事を中心にやっていた方ですが、依頼が激減したそうです。「AIで自分で作れる」ようになった発注者が、外注をやめていった。これがいま起きている現実の一つです。
残っている仕事は逆です。クライアントの業種を理解して、競合を調べて、何を見せて何を削るかを決める。納品後にアクセスを見て改善する。地元で顔を合わせて相談に乗る。こういう仕事は減るどころか増えています。
言い方を変えると、「言われたものを作るだけの人」は厳しくなって、「何を作るべきか一緒に考えられる人」は強くなる、という分かれ方です。
少なくとも一部の調査では、Web制作者の単価上昇が見られます
株式会社日本デザインが2026年初めに発表した調査があります。2026年1月に、直近3か月以内に有償案件を受けたフリーランス・副業のWebデザイナー110名に聞いた結果です。
2025年の案件単価について「上がった」と答えた人が62.7%。受託した案件数も「大幅に増えた」が21.8%、「やや増えた」が52.7%で、合わせると7割超が「増えた」と回答しています。
AI活用の影響では「修正回数が減った」が63.2%、「成果物の品質が向上した」が47.2%、「提案が通りやすくなった」が43.4%。少なくともこの調査では、AIを活用しているWebデザイナーのあいだで、単価上昇や修正回数の減少、品質向上の実感が出ています。ただし、これはフリーランス・副業のWebデザイナー110名を対象にした調査で、業界全体をそのまま代表する数字ではありません。
数字の背景自体はシンプルだと思います。作業時間が短くなったぶん、考える時間と話す時間に回せる。提案の精度が上がって、クライアントとのズレが減る。AIは「同じ作業を安くやる道具」というより、「アウトプットの質を上げる道具」として使われ始めています。
道具は広がった。でも「使いどころ」はまだ固まっていません
生成AIは、もう一部の先進企業だけの話ではありません。総務省の情報通信白書でも、日本企業の55.2%が何らかの業務で生成AIを使っていると報告されています。その一方で、中小企業では活用方針を明確に定めていない企業が約半数あるとされています。
道具は広がりました。でも、どう使えば成果につながるかは、まだ整理されていない。だからこそ、「作れる人」より「使いどころを判断できる人」の価値が上がっています。ここが、鹿児島の中小企業にとってはいちばん大事なところだと思っています。
鹿児島の中小企業の現場で起きていること
「じゃあ、うちもAIで自分でホームページ作れるんですよね?」と聞かれることがあります。Wix Harmonyのように、日本語のプロンプトでサイト生成を見せるサービスも出てきました。たしかにすごい時代です。
ただ、AIでできる範囲はサービスごとに違います。たとえばSTUDIOは、いまのところ画像やテキストの生成、レスポンシブ調整、SEO補助といった”制作支援”のAI機能が中心です。AIで制作はかなり速くなっているけれど、「一からサイトを丸ごと自動生成」までできるかどうかは、ツールによってバラつきがある。ここは押さえておいてほしいところです。
そのうえで僕の答えは、「やってみる価値はある。けど、ちゃんと結果を出したいなら別の壁にぶつかります」です。
実際にAIでサイトを作ろうとすると、判断しないといけないことがけっこう出てきます。誰に向けたサイトか、どの順番で何を見せるか、写真はどれを選ぶか、文章はどこまで詰めるか、SEOはどうするか、サーバーやドメインの設定はどうするか。一つひとつは小さい判断ですが、これを全部素人がやると、3時間でサイトはできても3年使えるサイトにはならないことが多いです。
「動くサイトを作る」のと「集客できるサイトを作る」のは、まったく別の話なんです。前者はAIで誰でもできる時代になりました。後者はむしろ、判断できる人と組んだほうが早いです。
AIで内製していい会社と、人と組んだほうが早い会社
AIで内製したほうがいい会社もあります。すでに固定客がいて、ホームページの役割が「情報を載せておくこと」に近い会社です。営業時間、料金、メニュー、アクセス、採用情報。このあたりを整えておけば十分な業種なら、AIやノーコードで作って自分で運用するのは合理的だと思います。
逆に、人に比較されて選ばれる必要がある会社、問い合わせ率や採用の応募率まで見たい会社、公開後も改善していきたい会社は、最初から人と組んだほうが早いです。サイトを作ること自体はAIで速くなっても、誰に何を見せるか、何を削るか、どう改善するかは別の仕事だからです。
AIで作るときに見落としやすい、公開後のコスト
AIでサイトを作ると、最初の見た目はかなり早く整います。けれど、そこで終わりではありません。公開後に必要になるのは、アクセス解析、問い合わせ導線の改善、スマホ表示の細かな調整、画像や文章の差し替え、フォームやセキュリティの確認、検索結果でどう見えるかの調整です。
つまり、AIで「公開まで」は短縮できても、「成果が出る運用」まで自動で終わるわけではありません。この差を理解しているかどうかで、内製が向いているか、外部のパートナーと組んだほうがいいかが変わってきます。
僕が実際にやっている仕事は、こう変わりました
正直に言うと、僕自身の働き方もこの1年でガラッと変わりました。
コーディングはClaude Codeに下書きを書かせて、僕が読んで修正する流れになりました。デザインのたたき台もAIに作らせて、そこから人間が調整します。提案書の構成案もAIに整理させて、僕が筋を通す。
体感としては、「作る」時間が3割、「考える・話す」時間が7割になりました。前は逆で、作業に追われて考える時間が足りなかったんです。今は「このお客さんに何が必要か」を考える時間がしっかり取れています。
これは「仕事を奪われた」ではなくて、「単純作業がなくなって、面白い仕事に集中できるようになった」感覚に近いです。クライアントとの関係も、納品して終わりではなく、運用しながら一緒に改善していくスタイルに変わってきました。
中小企業が制作会社を選ぶ目線も変わります
これは経営者の方に向けた話です。これから制作会社を選ぶとき、見るポイントを変えたほうがいいと思っています。
「安くサイトを作ってくれる業者」はAIで代替されつつあります。価格だけで選ぶと、AIで作れるレベルのものに高いお金を払うことになりかねません。
これから選ぶべきは「考えて、話して、改善まで付き合ってくれる相手」です。AIを使いこなしているかどうかも見たほうがいいです。AIを取り入れていない制作会社は、これから単純にコストが高くなりがちです。同じ品質を何倍もの時間で作ることになるからです。
イメージとしては、「Web制作会社に発注する」より「Web担当のパートナーを社外に持つ」感覚に近いです。月1回でも話せる関係を作っておくと、何かやりたくなったときに動きが早いです。
まとめ。「奪われる」より「組み替える」が現実に近い
AIに奪われる部分は確実にあります。これは事実として認めます。でも「Web制作者全員が消える」とか「もう発注する必要がない」というのは、現場で見ている景色とは違います。
奪われるのは作業。残るのは判断と関係性。それだけのシンプルな話です。
中小企業の経営者にとって大事なのは、AIで自分で作れるかどうかを悩むことではなくて、相談できる相手を持っているかどうかだと思います。
気になるところ、まとめて答えます
AIだけでホームページは本当に作れますか?
作れます。Wix HarmonyのようなAIエージェントを使えば、日本語の指示で形にするところまで進められます。STUDIOのようなツールも、画像やテキストの生成、レスポンシブ調整といったAIの制作支援で、作業はかなり速くなっています。ただし「動くサイト」と「集客できるサイト」は別物です。誰に何を見せるかの設計、文章の精度、SEOの整理、公開後の改善。このあたりまでAIに任せきりにすると、見た目はキレイだけど問い合わせが来ないサイトになりがちです。手を動かす部分はAIに任せて、判断する部分は人間がやる。これが現実的な使い方だと思います。
WixのAI機能で十分な業種ってありますか?
あります。すでに固定客がいて新規集客がそこまで重要じゃない店舗、メニューや料金を載せておくだけで成立する小さなサービス業。こういう場合は、AIで作って自分で運用するので十分なケースが多いです。逆に、競合と比較されて選ばれる必要がある業種——美容、医療、不動産、士業など——は、誰がどう設計するかで結果が大きく変わります。ここは人と組んだほうが早いです。
制作費って下がってるんですか?
二極化しています。テンプレ的な制作は確実に安くなっています。月数千円のAIサービスや、数万円の格安制作で済むレベルが広がりました。一方で、戦略から運用まで伴走するタイプの制作は、相場が上がる方向に動いています。株式会社日本デザインの調査でも、フリーランス・副業のWebデザイナー110名のうち6割超が単価の上昇を実感しています。ただし、これは業界全体を代表する数字ではありません。「全体が安くなった」ではなくて、「考えなくていい仕事は安く、考える仕事は高く」に分かれている、というのが正確な見方だと思います。
「AIが進んでいくなかで、自社のWeb集客をどうしていけばいいかわからない」——そういう状況なら、一度話を聞かせてください。AIに任せたほうがいい部分と、人間がやったほうがいい部分を、現状を見ながら一緒に整理します。