「ホームページもチラシも配ったけど、新規の顧問先がなかなか増えない」——独立して数年経った税理士の方から、この相談をもらうことが本当に多いです。最近そこに「YouTubeって本当に効くんですか?」という質問もセットで増えてきました。実際のところどうなのか、税理士YouTube活用の事例を調べて、僕なりに整理してみます。
税理士の集客が難しい理由
税理士業界はそもそも、新規顧客を獲得しにくい構造です。一度顧問契約を結べば長く続く一方で、契約に至るまでの心理的なハードルが高い。お金まわりを任せるわけだから、当然ですよね。
結果として、紹介・口コミに頼る事務所が大半になります。これが悪いわけじゃありません。むしろ理想的です。ただ、紹介だけだと事務所の成長スピードは紹介元の成長スピードに縛られます。新しいエリア・新しい業種に広げたいときに、打ち手が一気に減るんです。
そこで広告やWebに目が向きますが、リスティング広告は競合が多く、税理士の場合は1クリック数百円〜1,000円超えも普通。ホームページだけ作っても、検索で上位に出ないと存在しないのと同じです。「指名で検索される税理士になる」までの導線を、自分で作りにいかないといけない。
その候補のひとつとしてYouTubeが挙がってくるようになりました。動画はストックされる資産になるし、顔と人柄が伝わるから、契約前の信頼を貯めやすい。理屈としては税理士と相性がいいんです。
事例①:登録者78万人で顧問の問い合わせが年間1,000件超になった「脱・税理士スガワラくん」
三重県のSMG菅原経営株式会社・菅原由一さんが運営する「脱・税理士スガワラくん」。本人が2024年11月に発信した「YouTubeを1年10ヶ月ほど毎日更新して得られたこと」として、チャンネル登録者78万人超、1ヶ月の広告収益670万円、顧問の問い合わせが年間1,000件以上、月100万円以上の顧問依頼などを挙げています。現在は登録者数もさらに増えていて、業界内でも突出した成功事例なのは間違いありません。
これは正直、再現性のある話ではありません。毎日更新で1年10ヶ月、しかも登録者数十万人規模。中小事務所が「同じことをやればいい」と参考にできるレベルじゃない。
ただしYouTubeから顧問契約が生まれるという仮説を、業界の最大事例として証明しているのは事実です。「YouTube経由で高単価の顧問依頼が継続的に来る」という構造が成立する、ということだけ覚えておけば十分です。
事例②:登録者2万人で年300万円の売上を作った石川県の個人事務所
こっちのほうが、地方の中小事務所には参考になります。石川県小松市の河南恵美税理士事務所は、2019年1月にYouTubeを開始。個人事業主専門の地方事務所で、登録者がたった2万人だった時点で、YouTube経由の自社サービス販売で年300万円超の売上を作ったと公表しています。
河南先生のスタイルは「広告収入を狙わない」「自社サービスへの導線として動画を使う」という設計です。動画自体の再生数を伸ばすことより、見てくれた人にちゃんとオファーが届く構造を組んでいる。
登録者2万人というのは、YouTubeの世界では「中堅未満」です。それでもこの規模で売上が作れる。顧問契約という単価の高い商品を売る士業だからこそ、登録者数より「ちゃんと届くべき人に届く構造」のほうが効きます。
僕の見方だと、ここがYouTube活用で勘違いされやすいポイントです。「登録者10万人いかないと意味がない」と思って始めない人が多いんですが、税理士の場合、月1〜2件の顧問契約が生まれれば年商で数十万〜数百万のリターンになる。1,000人にバズる動画より、100人の経営者に届く動画のほうが価値があります。
成功してる事例に共通する3つのポイント
事例を横並びで見ていくと、伸びている税理士チャンネルにはハッキリ共通点があります。
1つ目は、ターゲットを絞り切っていること。「全国の中小企業向け」みたいな広い設定だと、誰にも刺さりません。河南先生は「個人事業主専門」、菅原さんは「節税・税務調査対策」、ヒロ税理士(大阪・税理士法人Five Starパートナーズ/登録者42万人)は「経営者向けの実務解説」と、それぞれが軸を1つに絞っています。
2つ目は、トレンドキーワードに乗せていること。インボイス、電子帳簿保存法、定額減税、暗号資産、ふるさと納税など、その時期に検索されやすいテーマを動画タイトルに必ず入れる。YouTube内の検索結果でも上位に出るし、視聴者の悩みとも重なる。
3つ目は、長く続けていること。事例を見ていくと、2年前後の継続が目立ちます。河南先生も「2年6ヶ月かけてYouTubeのノウハウを作り上げた」と話しています。3ヶ月で結果が出るチャンネルはほぼないと思っていいです。半年で諦めると、そこまでの動画も全部死蔵になります。
YouTubeが向いている事務所、向いていない事務所
「やる価値はあるのか」を考える前に、まず「誰に向いているのか」を整理しておくと、判断がラクになります。税理士のYouTubeは、どの事務所でも同じように効くわけじゃないんです。
向いているのは、「個人事業主」「ひとり社長」「法人化」「節税」「資金繰り」「税務調査」みたいに、経営者が自分で検索しやすくて、しかも相談単価が高いテーマを持っている事務所です。悩みが言葉になっていて、その悩みを抱えた人がちゃんとお金を払ってでも解決したいテーマ。ここが揃っていると、動画が相談に変わりやすい。河南先生の事例も、個人事業主専門という絞り込みが導線全体の軸になっていました。
逆に、完全紹介制で十分に回っている事務所や、地域の既存顧客で手いっぱいの事務所、あるいは所長が発信そのものを強く嫌う事務所だと、投下した時間に対してリターンが出にくいです。優先順位は高くない。大事なのは「YouTubeをやるべきか」じゃなくて、「自分の事務所の商品と顧客に、動画が合うか」を先に見ることだと思います。
鹿児島の税理士事務所で応用するなら
地方都市で個人事務所〜数名規模、というケースを想定して、現実的な進め方を考えてみます。
まず動画は週1本でいい。毎日更新は無理だし、無理してやって質が落ちたら逆効果です。1本15〜20分の解説動画を、台本を作ってから撮る。撮影は事務所の机でiPhoneで十分です。最初から照明や編集に投資しなくていい。
テーマは「鹿児島の中小企業の社長が、税理士に聞きたいけど聞きにくいこと」に絞る。「初めて法人化するときに何を準備するか」「決算3ヶ月前に見直すべき経費」「個人事業主のインボイス、結局やるべきか」みたいな、検索されているけど競合の動画が少ないテーマを狙います。
動画の最後には必ず「初回相談はこちら」のリンクを置きます。ここがないと、再生されても問い合わせには変わりません。YouTubeはあくまで入口で、受け皿になるホームページや問い合わせフォームがちゃんと整っていることが前提です。
1年続けて、ホームページのアクセスとYouTube経由の問い合わせの推移をチェックする。1件でも顧問契約が生まれれば、月3万円×12ヶ月で年36万円。これが2件、3件と積み上がれば、撮影と編集にかけた時間は十分回収できる計算です。
税理士YouTubeは「登録者数」より「相談導線」で見る
さっき「登録者数より届く構造」と書きましたが、もう半歩進めて、じゃあ何を数字で見ればいいのかまで整理しておきます。これがズレると、せっかくやっても判断を間違えます。
税理士のYouTubeで見るべき数字は、登録者数よりも「問い合わせフォームへの流入数」「初回相談数」「商談化率」「顧問契約化率」です。この4つ。エンタメ系のチャンネルみたいに、再生数そのものを競う必要はありません。税理士の場合、月1件の顧問契約でも十分に投資が回収できることがあるからです。
河南先生の事例も、YouTube単体の広告収益じゃなくて、YouTube→自社サービス→顧問契約という導線で見たほうが本質に近い。動画の評価軸も「何万回再生されたか」じゃなくて「何件の相談に変わったか」に置いたほうが、現実に合っています。
税理士YouTubeで失敗しやすい3つのパターン
ここまで成功事例の話が続いたので、「じゃあ始めれば何とかなるのか」と見えてしまうかもしれません。でも実際はそうじゃなくて、ちゃんと失敗パターンがあります。よくあるのは次の3つです。
1つ目は、テーマが広すぎること。誰に向けてなのかがボヤけると、誰の相談にも繋がりません。これはさっきの「向き不向き」とも繋がる話です。
2つ目は、動画の最後に相談導線がなくて、再生だけで終わってしまうこと。入口だけ作って受け皿がないと、せっかく届いた人がそのまま帰っていきます。
3つ目は、制度改正の情報が古くなっても動画を放置すること。税金や制度の話は、1年前の動画がそのまま今も正しいとは限りません。古い情報を出しっぱなしにすると、逆に信頼を損なうこともあるんです。だから税理士のYouTubeは、投稿本数だけじゃなくて「古い動画のメンテナンス」まで含めて運用だと思ったほうがいいです。これは一般のインフルエンサーより、税理士にこそ必要な視点だと思います。
税理士がYouTubeで気をつけたいのは「伸ばし方」より「言い方」
もう1つ、士業ならではの注意点があります。広告表現のルールです。集客のテクニックより先に、ここを押さえておいたほうがいい。
税理士の広告は原則自由になっていますが、何を言ってもいいわけじゃありません。日本税理士会連合会の資料でも、事実に合致しない広告、誤認を招く広告、品位や信用を損なうおそれのある広告には注意が必要だと整理されています。しかもHPやSNSも「外部に対する表示」に含まれるので、YouTubeの概要欄や、誘導先のLPも例外じゃないんです。
「絶対に得する」「節税額を保証」「地域No.1」みたいな強い言い回しは、動画が伸びるか以前に、士業としての信頼を削るリスクがあります。税理士のYouTubeは、派手さより「ちゃんとしている感」のほうが、最終的には問い合わせに効きます。
結局、税理士のYouTubeはやる価値があるのか
結論を一言で言うと、「2年続けられる覚悟があるならやる価値はある。3ヶ月で諦めるならやらないほうがいい」です。
YouTubeは過去の動画が資産として残る数少ない媒体です。ブログ記事と同じで、3年前の動画から今月の問い合わせが来ることもあります。短期の費用対効果で見ると割に合わないけど、5年スパンで見ると、紹介に依存しない集客の柱になり得る。これは他のSNSにはない強みです。
「ホームページもチラシも一通りやったけど、新規がどうにも増えない」——もしそういう状況で、YouTubeを集客の柱にできないか考えているなら、一度現状を聞かせてください。向いているテーマがあるか、どんな導線を組めばいいか、一緒に整理します。
気になるところ、まとめて答えます
YouTubeを始めるのに最初にいくらかかる?
iPhoneと無料の編集アプリ(CapCutなど)があれば初期費用ゼロで始められます。本格的にやるならピンマイク(5,000円前後)と簡単な照明(1万円前後)を足す程度で十分。最初から数十万のカメラや編集ソフトに投資する必要はありません。むしろ続くか分からない段階で投資するほうが、リスクが高いです。
顔出ししないとダメ?
YouTube公式の収益化ポリシー上、顔出しは必須ではありません。重視されるのは、顔が出ているかどうかじゃなくて、動画がオリジナルで、独自の解説や編集などの付加価値があるかどうかです。ここは勘違いされやすいので押さえておいてください。
ただ、税理士の集客という観点だと、顔出ししたほうが「どんな人が話しているか」が伝わりやすくて、相談や問い合わせには繋がりやすいのも事実です。顧問契約は信頼が前提の商品ですからね。つまり、YouTubeのルール上は必須じゃないけれど、税理士の営業上はやや有利、くらいに考えておくのが正確です。最初は抵抗あっても、慣れます。
動画のネタが続かないんですが、どうしてる?
毎日のクライアントからの質問・相談が、そのままネタになります。「今日聞かれたこと」を1本5分の動画にするだけで、年100本は普通に作れる。逆に「これからネタを考える」と思うと続きません。日々の業務をネタ帳として使う前提でフォーマットを組むのがコツです。