朝、診療が始まる前から電話が鳴る。窓口には患者さんが並んでいて、その合間に紙の問診票を電子カルテに打ち直す。内科の受付って、こういう時間帯がありますよね。Web予約やWeb問診を入れたら、この中のどの仕事が減るのか。公開されている医療機関の事例を、元の資料まで当たって調べてみました。
Web予約とWeb問診は、受付と問診まわりの手間を減らす選択肢になります。国立病院機構甲府病院では、電子の問診を入れたあと、初診患者の受付から会計までの平均時間が11.4分短くなったと報告されています。ただし、今回調べた事例からは「再診の患者さんが増えた」とまでは確認できませんでした。電話や紙を使う患者さんへの対応も残したうえで、院内のどこで時間がかかっているかを先に調べる。導入はそのあとです。
内科クリニックの受付、何が大変なのか
予約の電話、予約の変更、窓口での受付、問診票の記入のお願い、その内容の転記、会計。受付の仕事は、細かい作業が同じ時間帯に重なります。
ここでまず分けておきたいのが、Web予約とWeb問診は別の機能だということです。Web予約は、ネットで受診の予約を取る仕組み。Web問診は、症状などをスマホやパソコン、タブレットで入力してもらう仕組みです。セットで入れる製品もありますが、困っている作業によって、先に変えるべき場所は違います。
電話が多いのか。問診の転記に時間を取られているのか。会計で患者さんを待たせているのか。ここを分けずに「とりあえず全部入れる」と、思ったほど楽にならないことがあります。
事例① 土屋クリニック(東京都荒川区)初診の記入を来院前に済ませる
東京都荒川区の土屋クリニックは、内科などを診療している医院です。公式サイトでは、Web予約を24時間受け付けていると案内しています。予約に続けて問診に答えてもらい、来院前に相談内容を伝えてもらう流れです。
同院のコラムでは、事前に予約しておくことで約10分の短縮につながると説明しています。初診のときに書く氏名などの記入や問診票を、来院前に済ませておける、という話です。
ただ、この「約10分」は、何人を測ったのか、いつと比べたのかが示されていません。受付から会計までを実際に測った数字や、再診率が上がった数字として読むのは避けたほうがいいと思います。
僕が参考にしたいのは、再診の患者さんにも「相談したいことを先に書いてください」と案内している点です。予約を受けるだけで終わらせていない。入力された内容を、診察の前に誰が確認するかまで決めておくと、この仕組みが生きてきます。
事例② 名駅ファミリアクリニック(名古屋市)予約と支払いの案内を分ける
名古屋市の名駅ファミリアクリニックは、内科・小児科の医院です。公式サイトでは、Web予約、電話予約、直接の来院と、受診の方法を3つ案内しています。Webだけに絞っていないわけです。
公式の予約ページには、ネット上でクレジットカード決済ができるという案内もあります。一方で、初診の案内には窓口での会計についても書かれていて、どの条件ならネット決済で帰れるのかは、公開情報だけでは確認できませんでした。
自院でネット決済を入れるなら、支払い以外の手続きも一緒に決めておく必要があります。処方箋や領収書をどう渡すか。決済がうまくいかなかったときはどうするか。患者さんが帰るまでの流れを、最初から最後まで通して確かめてください。
事例③ 国立病院機構甲府病院 平均11.4分短縮の中身
厚生労働省が2025年3月にまとめた看護DX(デジタル技術で看護の仕事を見直す取り組み)の事例集に、甲府病院の報告があります。規模はクリニックと違いますが、数字の出し方が丁寧なので紹介します。
この病院が入れたのは、電子予診です。診察の前に、症状などを端末に入力してもらう仕組みで、このときは院内でタブレットを渡して入力してもらっていました。自宅での入力ではありません。
初診患者の外来受付から会計が終わるまでの平均時間は、導入前が177.0分、導入後が165.6分。11.4分の短縮です。測ったのは導入前が32人、導入後が26人でした。
看護師へのアンケートでは、問診の転記に時間がかかると答えた人の割合が、82.0%から26.3%に下がっています。これは仕事の量が8割から2割台に減ったという意味ではなく、「時間がかかる」と感じている人の割合です。
見落とせないのが、患者さんの入力時間は電子予診のほうが長かった、という記載もあることです。職員の手間が減った分、患者さんの手間が少し増えている。両方を見て判断したいところです。
3つの事例から見えること
1つ目は、「来院前か院内か」「予約か問診か」で、減る手間が違うこと。土屋クリニックは、来院前に入力を済ませて当日の記入を省く話。甲府病院は、院内での転記を減らす話です。同じ「Web問診」でも、効くところが違います。
2つ目は、Webだけに寄せていないこと。名駅ファミリアクリニックは電話予約と直接来院も残しています。
3つ目は、患者さんの手間までゼロになるわけではないこと。甲府病院では、患者さんの入力時間はむしろ長くなっていました。そのうえで僕なら、問診の中身を誰がいつ確認するかを、導入前に決めておきます。
僕の見方だと、Webの仕組みは受け皿にすぎません。予約の入口をネットに変えても、その先の確認や会計がつながっていなければ、患者さんが感じる待ち時間はあまり変わらないと思います。
鹿児島の内科クリニックで応用するなら
まず、困っている作業を書き出す
1週間だけでいいので、電話の用件と受付の作業をメモしてみてください。予約の変更が多いのか、問診の転記が重いのか、会計で詰まっているのか。いちばん時間を取られている作業から手をつけます。
電話と紙は残して、担当を決める
最初は、対象の診療や予約枠を絞って試すのが現実的です。電話とWebで同じ予約枠を管理できるか、予約の変更を誰が反映するかを確認します。入力が難しい患者さんには、紙の問診や職員の手伝いも用意してください。
Web問診の内容を確認する担当と時間帯も、始める前に決めておきます。急ぎの症状が書かれていたときにどう案内するかは、院長や看護師が判断して決めておく部分です。
電子カルテとの連携は、実際の画面で確かめる
「電子カルテと連携できます」という説明だけで、転記がすべてなくなるとは限りません。患者さんの照合から、回答の確認、カルテへの記録まで、試用の画面で一通りやってみてください。LINEと連携した予約や通知を考えているなら、自院の患者さんが実際にLINEで受け取れるかも確認が必要です。
導入後は、予約の数と仕事の変化を分けて測る
導入する前から、電話の件数、対応にかかる時間、問診の確認時間を記録しておきます。受付から会計までの時間や、入力を手伝った件数も比べたい数字です。初診か再診か、曜日などの条件をそろえて、何人分を比べたかも残してください。
Web予約が増えても、電話予約がWebに置き換わっただけかもしれません。再診につながっているかを見たいなら、医師が次回の受診を案内した患者さんが、予定どおり来られたかを追う形になります。
正直に言うと、ここまで測るのはけっこう大変です。受付が忙しいからこそ入れる仕組みなのに、測る作業が増えるからです。最初の1か月だけでも、測る項目を絞って続けてみてください。
費用と補助金は、契約の前に確かめる
費用は、予約と問診のどこまでを含むかで比べます。初期設定、月額料金、電子カルテとの連携、端末の費用。通知や決済の手数料、解約するときの費用も確認したいところです。月額が安く見えても、別の契約が条件になっている製品もあるので、料金表の注意書きまで読んでください。
補助金は、2026年は「デジタル化・AI導入補助金2026」という名前になっています。以前のIT導入補助金にあたる制度で、医療法人も対象に含まれます。通常枠の補助率は原則1/2以内で、賃金に関する条件を満たすと2/3以内です。
気をつけたいのは、交付が決まる前に発注・契約・支払いをしたものは対象外になることです。申請しただけでは、まだ契約できません。締切や要件は回ごとに変わるので、補助金の公式サイトと、申請を手伝う登録事業者に確認してください。
患者さんの情報をどう守るかも決めておく
問診で扱う病歴などは、要配慮個人情報(取り扱いに特に注意が必要な個人情報)にあたります。利用目的の案内、職員が見られる範囲、システム会社の管理体制を確認しておきます。
厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」も確認しておきたい資料です。2026年9月時点で公開されているのは第7.0版でした。製品側の対策だけでなく、院内の責任者や、システムが止まったときの連絡先と受付方法も決めておいてください。
まとめ
僕なら、仕組みを選ぶ前に「どの作業を減らしたいか」を先に決めます。そのうえで、電話と紙を残しながら、予約と問診を少しずつWebに寄せていく。導入の前後で測ることも忘れないでください。
電話対応や問診の転記に追われて、受付が回らない。そんな状況なら、今の受付の流れを見せてください。患者さんの名前や症状が入っていない形で十分です。先に変える作業と、導入後に確かめる数字を一緒に整理します。
ここも気になるかも
Web予約とWeb問診は、同時に入れたほうがいいですか?
同時でなくて大丈夫です。予約の電話が多いなら予約から、転記が重いなら問診から考えます。あとから追加するときの連携方法や費用は、最初の契約の前に確認しておいてください。
導入費用は、月額料金だけ比べればいいですか?
初期設定、連携、端末などを含めた総額で比べてください。必要な機能と契約期間をそろえると、見積もりを比べやすくなります。
補助金は、契約してから申請できますか?
できません。デジタル化・AI導入補助金2026では、交付が決まる前の発注・契約・支払いは対象外です。使いたいなら、契約の前に要件を確認してください。採択されなかった場合の負担も考えておくと安心です。
高齢の患者さんが多くても使えますか?
年齢だけで決めずに、実際に何人かに試してもらうところから始めてください。電話や紙は残して、入力の手伝いにかかる職員の時間も記録します。Webを使う人が増えても、受付全体の負担が増えていないかを見ていきます。
Web予約を入れれば、再診は増えますか?
今回調べた事例では、再診率が上がったという数字は確認できませんでした。予約の取りやすさと、次の受診に来られたかどうかは、分けて確かめる必要があります。受診の時期は医師の判断に沿って案内し、予約の変更方法もわかりやすくしておいてください。