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ネット経由の受注が累計2億円。町工場がWebで取引先を見つけた話

「うちは下請けなので、ホームページは名刺代わりでいいんです」。製造業の方と話していると、けっこうな確率でこの言葉が出てきます。会社概要と地図と電話番号。それだけのページが、10年くらい更新されないまま置いてある。

ただ、その「名刺代わり」だったはずのサイトから新しい取引先を見つけている町工場が、実際にあります。何をやったのか調べてみました。

BtoB(企業間取引)の製造業は、検索する人の数こそ少ないですが、1件の受注が大きい。だから「探している人が確実に自社にたどり着く」形にすると、アクセス数が地味でも成果が出ます。うまくいっている会社に共通しているのは、加工できる範囲ではなく引き受けられる条件を書くこと、専門用語を検索する人の言葉で説明すること、そして結果が出るまで数年かかる前提で続けることの3つです。

製造業のWeb集客、何が難しいのか

まず、検索する人が圧倒的に少ないです。「真空チャンバー 製作」で調べる人は、月に何人いるでしょうか。「美容室 鹿児島」とは桁が2つくらい違います。

ここで多くの会社が「アクセスが伸びないから意味がない」と判断してしまいます。でも、BtoBのサイトをアクセス数で評価するのは筋が悪い。1件の受注が数十万円から数百万円になる商売なので、月に3件でも本当に必要な相手から問い合わせが来れば、それで成立するんです。母数の小ささと単価の大きさは、セットで見ないといけません。

もう1つ、買う側の探し方が変わりました。昔は取引先の紹介や商社経由が中心でした。今は発注担当者が自分で検索して、候補を2〜3社に絞ってから声をかけます。この最初の3社に入っていないと、そもそも比較の土俵にすら乗れません。

事例① ネット経由の累計受注が2億円を超えた真空部品メーカー

兵庫県尼崎市のステンレスジョイント株式会社。真空チャンバー(実験装置や製造装置に使う、中を真空にするための容器)を作っている小規模なメーカーです。経営者の平岡さんがご自身のブログで数字を公開されていて、これがかなり生々しい。

2015年4月にサイトを開設。その年のネット経由の売上はゼロだったそうです。翌2016年にようやく初受注が入って、金額は1万円。そこから積み上がって、2022年10月に累計1億円、2023年10月に1.5億円、そして2025年1月の時点で累計2億円を超えたとのことでした。

取引先には東京大学、京都大学、JAXA、トヨタグループなどを含む100社超が並んでいます。真空部品を必要とする大学や研究機関という、かなりニッチな相手に狙いを定めた結果です。

僕の見方だと、この事例で一番大事なのは「初年度ゼロ、翌年1万円」という部分です。正直、ほとんどの会社はここでやめます。

事例② めっき屋さんが、用語解説をコンテンツにした

福井県の三和メッキ工業。2000年にホームページを立ち上げて、そこから20年以上積み上げてきた会社です。

サイトを開くと、めっきの専門用語の解説集が5,000語以上、めっきのQ&A、それから他社のめっき不良を診断するセカンドオピニオンのサービスまで載っています。実績も、めっき加工実績44,916件、取引実績39,500件突破という形で数字で出している(いずれも2026年8月時点のサイト表記です)。

やっていることは、突き詰めると2つだけです。「1個からでも受けます」「最短2日で納品」「見積もり回答は最短2時間」という引き受け条件をはっきり書くこと。そして、めっきについて調べている人が知りたいことを全部書くこと。

これ、SEO(検索で上位に表示されるための工夫)狙いの小手先に見えるかもしれませんが、順番は逆だと思います。めっきの用語を検索する人は、たいてい何かに困っています。その困りごとに答えているページがあるから、結果として検索でも見つかるようになった。そういうことなんです。

事例③ 従業員6名の工場と、宇宙の仕事を取った工場

規模の小さい会社の例も見ておきます。

1つは株式会社シマテック。スタッフ6人でパーツフィーダ(部品を自動で並べて送り出す装置)を作っている工場です。専門用語を避けた言葉で製品を説明して、YouTubeに装置が実際に動いている様子を上げている。動く装置は、動きを見せないと伝わらないんですよね。理にかなっています。

もう1つは神奈川県の由紀精密。精密切削加工の会社です。3代目の大坪氏が2006年に家業へ戻って以降、Webサイトの刷新を含めた情報発信に力を入れた結果、売上高は平均年10%のペースで伸び続け、約4倍にまで到達したと報じられています。そして人工衛星の部品製造も、Webサイトへの問い合わせから始まったとのことでした。

町工場に宇宙の仕事の話が来る。紹介と商社経由だけで回していたら、たぶん起きなかったことです。

うまくいっている会社に共通する3つのこと

1つ目。「できること」ではなく「引き受けられる条件」を書いています。「精密加工承ります」ではなく、「1個から」「最短2日」「見積もり2時間」。発注する側が本当に知りたいのは、技術力が高いかどうかより、頼めるかどうかなんです。

2つ目。検索する人の言葉で書いています。三和メッキの用語解説が、わかりやすい例です。カタログの文章をそのまま載せると、どうしても業界の内側の言葉になります。でも探している担当者は、その分野の専門家とは限りません。設計を任された若手が、わからないまま調べていることのほうが多い。

3つ目。時間がかかることを受け入れています。ステンレスジョイントは2015年開設で初受注が翌年の1万円。三和メッキは2000年からです。半年やって問い合わせがゼロだから失敗、という判断をしていない。ここが一番の差だと思っています。

そしてもう1つ。ホームページ単体では、何も起きません。サイトは探して来た人を受け止める場所です。誰も探していない状態で立派なサイトを作っても、使われない応接室と同じなんです。

問い合わせが来てからが本番です

ここまで「見つけてもらう」話ばかりしてきましたが、BtoBで受注を分けるのは、実は問い合わせが来てからの速さです。サイトで見つけてもらえても、見積もりの返事が1週間後では、その間に話が他社へ流れます。

三和メッキが「見積もり回答は最短2時間」とわざわざ書いているのは、技術のアピールじゃないと思うんです。発注する側が本当に気にしていることに、先に答えている。それだけの話です。

だから、サイトを作る前にやることがあります。フォームの通知を自分の携帯に転送する。休み明けにまとめて見るんじゃなくて、毎日開く。これだけで、返信が1週間後になる会社にはたいてい勝てます。

サイトは受付です。受付がどれだけきれいでも、奥の席で3日放置されたら、来た人は帰ります。BtoBの問い合わせは数が少ないぶん、1件の扱いがそのまま受注を左右するんです。

鹿児島の製造業で応用するなら

鹿児島だと、金属加工の町工場より、食品加工や、機械の修理・メンテナンス、部品の組み立てを請けている会社のほうが多い印象があります。事例をそのまま真似する必要はありません。

最初にやってほしいのは、今受けている仕事のうち「他社が嫌がる条件」を洗い出すことです。小ロット、短納期、古い機械の部品、図面がない状態からの製作、1個だけの試作。こういう「面倒だけど、うちなら受けられる」条件が、そのまま検索されている言葉になります。

次に、その条件でページを1枚作る。サイト全体を作り直す必要はありません。「試作1個から対応します」というページを1枚、写真と過去の実績を添えて置くだけでいいんです。

そのうえで、Googleビジネスプロフィール(Googleマップに表示される、あの無料の情報枠)に会社を登録しておいてください。BtoBでも「〇〇市 金属加工」で調べる人はいます。地図に出てこない会社は、その時点で候補から外れます。

お金より、続ける手間のほうがかかります

「作り直すとなると、いくらかかるのか」。これはよく聞かれます。ただ、今回の4社を見ていて思うのは、かかるのはお金より手間だということです。

ステンレスジョイントの平岡さんは、外注が嫌でEC機能まで独学したと書かれています。由紀精密のほうも、今も問い合わせの大半はWebサイトからで、リニューアルによって取引先は当時の4倍以上に増えたとのことでした。どちらも、外に丸投げして終わりにはしていません。

ページを1枚足すだけなら、ドメインとレンタルサーバーで月に数千円から始められます。逆に、外注して一度きれいなサイトを作っても、更新されなければ10年前の名刺と変わりません。

だから判断の基準は「いくらかけるか」ではなくて、「何年続けられるか」だと思っています。ステンレスジョイントは2015年から、三和メッキは2000年から。10年単位で付き合う覚悟が先で、金額の話はその後です。

まとめ

製造業のWebで一番効くのは、かっこいいサイトを作ることではなくて、「他社が受けたがらない仕事を、受けられると書いておく」ことです。アクセス数は増えません。でも月に3件の問い合わせが、本当に必要な相手から来る。それで十分なんです。

下請けの比率を下げたいけれど、ホームページは10年前のまま。そういう状態なら、一度そのサイトを見せてください。今やっている仕事の中に、書けば引き合いになる条件が眠っていないか、一緒に探します。

ここも気になるかも

BtoBだとアクセス数が少ないですが、それでも意味がありますか?

あります。というより、BtoBはアクセス数で判断しないでください。月に100人しか来なくても、そのうち3人が発注権限を持った担当者なら十分です。見るべきなのは訪問者数ではなく、問い合わせの中身が仕事につながる相手かどうかです。

ホームページを作ってから、どのくらいで問い合わせが来ますか?

正直に言うと、数か月では来ないことのほうが多いです。今回調べた会社も、初受注まで1年かかっています。すぐ結果が欲しい場合は、Web単体ではなく展示会や既存客への案内と組み合わせたほうがいいです。

技術の詳細を載せると、競合に真似されませんか?

ノウハウの中核まで書く必要はありません。書くのは「何を、どんな条件で引き受けられるか」までで十分です。実際、加工の勘どころは文章を読んだくらいでは再現できません。それより、書かないことで見つけてもらえない損のほうが大きいと思います。

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